心というモンスター②

続きです。

まず齋藤孝さんの文章を引用します。


「年間自殺者三万人の衝撃」

その一方、もう13年も連続で、日本国内の年間の自殺者は三万人を超えている。東日本大震災の犠牲者・行方不明者の数は役二万人とされている。
勿論、質は違うが、数だけでいえば、日本は毎年、同程度の大災難に見舞われている事になる。
自殺に至るまでには、それぞれに理由があるのだろう。
しかし、一つの背景として、やはり心の肥大化の問題がある様に思われる。もう少し、精神や身体の領域が整えられていれば、もしかしたら死を選ばずに済んだかもしれない。

貧しくなるつつあるとはいえ、日本はまだまだ豊かな国だ。余程の事がない限り、とりあえず食べるのに困る事はない。非民主主義的な国家の様に厳しいルールもないし、当面が戦争の危機もなさそうだ。いわば心の自由を謳歌できる国なのである。
にもかかわらず、なぜこれほど多くの人が苦しんでいるのか。

一見すると極めて不思議に思えるが、実はそこにこそ問題があるのかもしれない。食べるのに困る時代であれば、とりあえず明日のパンの獲得に必死にならざるを得なかった。それには四の五の言わずに働くしかなく、必然的に心の領域は狭くなった。
ところが、「あくせく働かなくても生きていける」となると、「緊張の糸が緩んで」しまう。むしろ自由を獲得して、「選択肢が格段に増えてしまった」ため、かえって悩まされる事が増えてしまった。

「いちいち判断を要求される」と言い換えてもよい。
これ自体が、大きなストレスである。
その結果、些細な悩みや小さな傷の修復に時間を費やしてしまう事になる。その部分でいくら悩んでも満足な結果は得られないから、どうしてもうつむき加減になってしまう。つまり、心の領域が肥大化するわけだ。
恐らく自殺を考えた事のある人、いわゆる“予備軍“まで含めれば、その数は三万人の数倍にもなるだろう。引きこもりは70万人を超えていると聞く。
普通に暮らす人の中にも、“プチ鬱”な人はいる。もはや誰にとっても他人事では済まされない。
そこからどうやって抜け出すかは、誰もが真剣に取り組むべき大問題だ。そのためには気晴らしも必要だが、やはりベースは精神と身体を整えること。時代の空気に負けないほどの強靭さ、しなやかさを作ること。そして、安易に判断しないようにすることだ。

齋藤孝(明治大学教授)
誰の心にも、モンスターは潜んでいる(笑)

肉体的な辛さや飢えといった、身体的な感覚を強く感じる事が多かった時代の方がかえって、現代の便利過ぎる時代よりも心への負担は少なく、頭で考え過ぎないという意味では幸せだったのかもしれませんね。

現代人の不幸は、確かにこの文で書かれている様に「何をする時にも、自分の意思で、自分の頭で考える事を要求される」部分にあるのかもなと思わされます。だからこそ、「身体を使う、全身を使って生きる」という部分がこれからは必要とされていくのかもしれないな~と思います。

現代の様に、便利で機械化された社会に生きていると、頭脳だけを使っていれば済む生活になっている。しかし、身体を使わないと、脳だけが肥大化していってしまう。

僕自身は仕事上、毎日身体を使っているけれど、それでも「競技の世界って無理があるねんな」と色々な競技をしている人を見ていて感じています。一般的にはアスリートって健全なイメージがあるけれど、実際はそうでもなくて、物凄く心が不安定だったりするんですよね・・。

いつも成績や数字で、自分という人間の価値を測られ、他者との比較をされてしまう世界。そもそもスポーツ競技というもの自体が、人間が人工的に作った世界であって、不自然な世界と言えるんですよね。その最大の理由は「他者との比較や競争」で成り立っているところなのだと思います。

人間が自然の世界で生きていた頃は、他者との比較や競争などはしていない。生存競争という意味では、他の動物や他の部族との間であったとはいえるのかもしれませんが、今の人が気にする「他者の目」や「スペックの評価」というものは無かった。

心身を健全に保つためには、本来、人間はなるべく原始的な運動というか他者との競争ではないものをしておくべきなんだろうと思います。やっぱり「他者の目を意識して作られた世界=人工的な世界」というものは、精製された食べ物と同じで、どこかで人の脳を狂わせる麻薬みたいなものなんじゃないかなと思うんですよね。

それは農業とかでも同じで、出来具合や売り上げなどといった視点が入ってきた時点で、「他者との比較と競争」になる。これが今の世の中も、人間の脳も狂わせている最大の原因だと思っています。まあ、それは政治や大企業の経営者のように社会をコントロールする側が意図的に作っている部分なんでしょうけど、我々庶民はそこからどうやって抜け出すのかを真剣に考えないといけない時期に来ているんやろうな~と考えています。

Follow me!

前の記事

「心」というモンスター①

次の記事

心というモンスター③