もう一回、生きようと思ったの②
【プロローグ ~小さな奇跡~②】
「ぼく、アメリカに住んでたんだよ。アメリカに住んで、とっても楽しかったから、もう一回、生きようと思ったの。
そしたら誰かに、日本に行きなさい、って言われて、日本に飛んで行ったの」
奥さんは、内心の動揺を隠しながら、「一体、誰に、日本へ行きなさい、って言われたの?」と尋ねてみました。
「う~ん、分かんない。でも、日本に行きなさい、って言われたの。
それで、日本に飛んで行ったの。そしたら、ママのお腹の中にいたんだよ」
そう言えば、ヒロ君は、二歳の終わり頃から、時々、「お腹の中にいた時の格好」をして見せてくれる事がありました。勿論、そんな事をご夫妻の方から教えた事などありませんし、二歳の子供が、そんな知識を持っているはずもありません。
奥さんは、もう一度、真剣に聞いてみました。
「ママのお腹の中にいた時のこと、ヒロ君、覚えているんだよね?」
「うん、覚えてるよ。パパの声が聞こえたの。ママの声も聞こえてた」
そう言いながらヒロ君は、膝を抱えてうずくまり、「こんな風にしてたんだよ。眼が覚めたら、手を伸ばしたりしてた」と言いながら、足を動かしたり、手を伸ばしたりするのです。
「生まれた時のこと、覚えてる?」
「うん、覚えてるよ。頭が下になってて、頭からクルクル回りながら生まれてきたの」
奥さんは、すっかり、目の前に起きている現象を、認めないわけにはいかなくなっていました。ヒロ君が話してくれる様な事を。ヒロ君に教えた事など、一度もないのです。
赤ちゃんが、母親の産道の中をクルクルと回りながら生まれてくる事は確かに事実なのですが、ヒロ君がそれをどこかで知ったはずはありません。
これは、本当に、ヒロ君が経験した事のある現実の「記憶」に違いない、と、そばにいたご主人も確信しました。湧き上がる感動で胸がいっぱいになり、言葉を失ったご夫妻の前で、ヒロ君は、さらに平然と話し続けていました。
「ママのお腹から外に出た時、すごく明るくて、寒かったの」
それから数ヵ月ののち、私のインタビューに答えて下さった奥さんは、最後に、こう締めくくりました。
「私達夫婦は、たった四歳の息子から、生きる事の意味を教えて貰った様な気がします。息子の言葉から、毎日身の周りに起きる事を、何でも楽しみながら生きるべきだという、人生の大きなヒントを貰ったんです」
・・・・・「とっても楽しかったから、もう一回、生きようと思ったの」という、ヒロ君の言葉は、今でもご夫妻の胸に、深く刻まれています。