個々の人間が直接、繋がる
とてもいい記事。
本来、ネットによって個々の人が繋がれる情報化社会になる事で求めていたのは、こういう姿ですよね。
メディアや大手資本に間に入られて搾取されない。
ムダに捨てたりしない。
キングコング西野さんがよくおっしゃっていますが、直接繋がれる。それも自分がいいと思う生き方をしている人と、自ら努力して調べて「人検索」で繋がっていく。
それをみんなが怠けずにしていけば、無駄がなくなり、本当にいい仕事をしている人が残っていける社会が作っていけるはずなんじゃないか?
公権力や大企業の言う事ばかりを無暗に信じるクセはもうなくしていくべきだと思う。
漁師が全力で「働き方改革」をしたら…収入が増えて勤務時間が半減した 30代の夫妻が見いだした、環境に優しくて持続可能な漁業
1/4(木) 10:02配信
9月21日午前5時、岡山県玉野市の富永邦彦さん(36)は、港に泊めた自分の船「邦美丸(くにみまる)」に乗り込んだ。船名は、自分と妻美保さん(36)の名前から一字ずつ取った。
漁網リサイクル、文具に再利用も 繊維大手、海洋ごみ削減
日の出前の暗闇に包まれた穏やかな瀬戸内海。小豆島方面へ船で15分ほど進んだところで、底引き網漁を始めた。およそ1時間後に網を引き上げると、マダイ6匹とイカ数杯がかかっていた。邦彦さんはすぐにマダイの神経締めに取りかかる。鮮度を保つ上で重要な作業だが、船上でこなす漁師は多くない。大量にかかったら、一匹ずつ丁寧に処理する余裕はないからだ。一方、富永さんは大量には取らない。今日水揚げする量は、出港前から決めている。お客さんから注文を受けた分だけだ。
富永さん夫妻が実践しているのは「完全受注漁」。長時間労働を打開しようと始めたが、操業時間を半分以下に短縮できただけでなく、収入も増えた。水産資源や環境の保護にもつながる。試行錯誤の末にたどり着いた「持続可能な漁業の形」。取り組みに密着すると、驚きの未来が垣間見えた。(共同通信=我妻美侑)
▽完全受注漁とは
この日の注文は、魚種お任せ1・5キロセットと3キロセットなど。予約はECサイトやメールで入っていた。
完全受注漁の鉄則は、どんなに多く取れても受注分以外は海に返すこと。水揚げする魚の量が少ない分、余裕を持って神経締めなどのプラスアルファの作業ができる。品質とともに客の満足度も上がり、付加価値として値段に上乗せできる要因にもなっているという。
この日の漁は順調かと思われた矢先、邦彦さんが船上でつぶやいた。「今日は期待できないかも」。4回網を下ろしたが、2回目以降はさっぱり。揚がったのは大量のクラゲとごみばかりだった。2週間ごとに変わる潮目が悪かったようだ。これでは受注量に満たない。しかし、邦彦さんの顔に焦りの色はない。その理由は漁港に戻って分かった。
「いやぁ、ボウズでした」
既に帰港していた先輩漁師に伝えたところ、クロダイを分けてくれるという。どういうことかと不思議に思ったが、「自分たちの活動を理解してくれて、協力してもらえるようになった」と邦彦さんは言う。仕組みを聞いて納得した。
分けてもらった魚は富永さん夫妻が「買い取る」形で、先輩に収益が入る。SNSやインターネットに不慣れな先輩方にとって、夫妻の完全受注漁はまねできないが、「それなら自分たちが代わりに販売すればいい」。漁師みんなにとって、より良い形だ。
着岸した邦美丸には美保さんが乗り込んだ。魚の血抜きや梱包を、2人でてきぱきとこなす。美保さんは箱のふたの裏に、注文者へのメッセージを書き込んでいく。「これは受験前のお子さんが定期テストを終え、ゆっくり家族で食事するというお客さま用。直接コミュニケーションが取れて楽しい」
▽過酷な労働環境
大阪出身の邦彦さんは、もともと会社員。漁師の家に生まれた美保さんとの結婚を機に2008年、漁師に転身した。「海は男のロマン」と勇んで入った道だったが、現実は厳しかった。
操業時間は毎日約14時間。漁が終わっても、市場への出荷作業にも追われる。休日も漁具の修繕などに時間を取られ、自宅で寝るだけの日々。天候や魚の市場価格に左右され、収入も不安があった。疲れ果て、漁師を辞めて別の仕事をした時期もあったが、初心を思い返した。
「漁師になるために岡山に来たんじゃなかったのか」
やるからには悪循環を断ち切りたい。これまで通り市場への出荷を続けながら、まず取り組んだのが、個人や飲食店向けに直販できるECサイトでの受注販売だった。これだと魚価を漁師自ら設定できるため、収入が増えると見込んだ。ただ、これまでより仕事量が増えることになり、さらに長時間労働になってしまった。
先輩漁師からは嘆きも聞こえてくる。
「こんなにしんどい仕事、子どもに継がせたくない」
漁業はかつて、花形だった。農林水産省の報告書によると、漁業の就業者は1961年に約70万人。しかし、その後は減少傾向が続き、2021年は約13万人まで減った。高齢化も進む。
邦彦さんと美保さんは現状に危機感を抱いた。「若い人が継がなければ、そのうち食卓から魚が消えてしまう」。考え抜いてたどり着いたのが、注文を受けた分だけ取って客に直売する完全受注漁。2022年からは市場への出荷をやめ、受注漁に一本化した。
その結果、操業時間は半分以下の6時間ほどになり、ワークライフバランスが劇的に改善。水揚げ量は3分の1に減ったものの、売り上げは2倍以上に増えた。
直販スタイルのため、業者の中間マージンが発生しない。時短で燃料代や漁具修繕費を削減できたのもプラスに働いた。何より、3人の子どもと過ごす時間が増えて家族の絆が深まった、と美保さんは言う。「いつもイライラしていた夫に笑顔が増えた。子どもたちも喜んでいる」
乱獲防止、原油価格の高騰対策、脱炭素。初めは想像もしていなかった副産物があり、富永さん夫妻は、完全受注漁こそが「漁師が直面する問題の解決の糸口になる」と感じている。その先の目標は、子どもの将来の夢ランキングで漁師が1位になること。夢物語と思いきや、そうではないという。
▽世界の常識
邦彦さんがこんな説明をしてくれた。
「ノルウェーでは実際に、将来の夢ランキングで漁師が1位になったことがあるそうなんです」。ノルウェーは水産大国だ。1970年代に乱獲で資源が減少し、国を挙げて漁獲規制の徹底を図った結果、資源量が回復し、安定的に保てるようになった。また、漁船ごとに漁獲量の上限を定める方式を採ったため、他の漁師との過剰な競争が不要に。魚の価値が高いときに計画的に取るため、高値で売れる。ノルウェーでは今、「稼げる職業」として認識されているというのだ。
世界的にも漁業は「成長産業」。邦彦さんによると、日本ではまだ「需要に関係なく、たくさん取ったもの勝ち」という考えが強く、魚が減ったと言われるが、漁獲規制を進めた諸外国ではむしろ増えているという。
水産資源管理に詳しい東京海洋大の勝川俊雄准教授によると、日本も1997年から魚種ごとに「漁獲可能量(TAC)」を設けている。ただ、「頑張っても取り切れない量に設定されていて、何の意味もない」。しかも、TACを設けた魚種は現状8種のみ。国は漁業法を改正し、2023年度までに漁獲量全体の約8割をカバーできる23種まで増やす案を示したが、漁業関係者からさまざまな意見が出ており、追加に至っていない。
これまで邦彦さんが後継者不足や不漁の問題について先輩漁師と話すと、こう返された。「国が変わらなければどうしようもない」
だが、完全受注漁を始めて感じたのは正反対のことだ。「国が変わらなくても個人から、地方から変えられる」。SNSの発信に力を入れると、高校生から「受注漁がしたい」とメッセージが届いたり、漁師になりたいという小学生がお母さんと見学に来てくれたりした。そんな反響に力をもらい、輪の広がりも感じている。
勝川准教授はこう語る。「何より大事なのは、日本周辺の水産資源を持続可能にすること。漁業が衰退し、魚もあまりいなくなった中で、漁獲規制で量をコントロールし資源を回復しなければならない。漁業者の経営を成り立たせることも重要で、量ではなく、価値をどう高めるかを考えていくべきだ。その意味で、受注漁は選択肢の一つになり得るかもしれない」
▽さらなる改革
邦彦さんと話して感じるのは、先輩漁師たちへの「リスペクト」だ。
「戦後の食糧難で『皆がおなかいっぱいになれるように』と願った時代に、先輩方が大量に取れる技術を確立してくれたおかげで今がある。だから資源量の減少を『乱獲したからだ』と責めるのは、きっと違う。今自分たちにできるのは、恩返しとして、そして次の世代に向け、知恵を絞って限りある資源を守り、稼げる産業にすることだ」
受注漁に地産地消をミックスさせる取り組みにも挑戦している。これまでのネット取引では遠方からの注文も多く、長距離輸送が生じる。これでは環境負荷が高く「持続可能ではない」と考え、地元飲食店から直接受注するルートも作った。たくさん取れて高値が付かないクロダイに着目し、これを市場より少しだけ高く買ってもらう試みだ。量が多いので少しの単価上乗せで収入の安定につながる。フレンチ店やラーメン屋が考案した新メニューにも期待が膨らむ。
漁の現場を案内する「観光漁船」も始めた。命をもらい生産者に感謝する「いただきます」の意味を伝え、資源減少の一因である「安定供給」の考え方を問い直したいという。漁師を志す人が参入する取っかかり、引退漁師のアルバイト先にもなればと思っている。
「これがうまく回れば、岡山から、地方から漁業を良い方向に進められる」。夫妻はそう確信している。