自分を律して厳しくする

イチローさん、高校球児への言葉。

イチローさん、先生の指導が「しっくり来なければやらなくてもいい?」旭川東野球部、唯一の女子選手の悩みに“イチ流”回答

「人より頑張らなくていい。
自分の中でその日の限界を迎えることはできるよね。迎えることができたのか、逃げてしまったのか、自分ならわかるよね。

それを重ねて行ったら、できるようになる。
誇りやプライドが生まれるから、それが支えてくれる」

「指導者、厳しくできないって。
時代がそうなっちゃってて。

厳しくできないと何が起こるかっていうと自由にできちゃうからね。なかなか自分に厳しくできないでしょ。

今、自分を甘やかすことはいくらでもできちゃうよね。でもそうなってほしくない。いずれ苦しむ日が来るから、大人になって社会に出てから。

できるだけ自分を律して厳しくする。
(部員同士)仲良しだから、『ホントはこれ言いたいけどやめとこうかな』ってあるでしょ。

でも信頼関係が築けてたらできるでしょ、『お前それ違うだろ』って。

言わなきゃいけないことは、1年から2年に言ったっていいよ。『先輩これは違うんじゃないか』。

そういう関係が築けたら、チームや組織は絶対強くなれますよ。それを遠慮してみんなとうまく仲良くやるでは、いずれ壁が来ると思う。
それがこの2日間で感じたこと」

以下、記事の全文を転載。

心構えから、体の使い方まで、流石っていう言葉が並んでいました。超一流の人と場を共にするって、これ程いい影響を与えて貰える事って無いと思う。人生の宝物ですよね。

イチロー氏(50、マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)の高校球児指導が今年も実現した。「今年も限られた時間の中ではあるが、積み重ねられた思いに応え、純粋で熱い球児たちと向き合う」というイチロー氏が今回訪れたのは、北海道の旭川東高校。きっかけは一昨年の大晦日に学校関係者から届いた「悲願を叶えたい」という一通のオファーだった。

過去11度決勝で敗退…甲子園出場の悲願叶えたい

旭川東は今年で創立120年を迎える道内有数の進学校。1903年の創部以来、北海道大会の決勝に11度進んでいるが、一度も甲子園の土を踏んでいない。2022年夏も北北海道大会決勝に53年ぶりに進んだが、敗れている。イチロー氏は「悲願を叶え、未来の礎となるきっかけを残せたら」と、2020年に初めて智弁和歌山(和歌山)を訪れて以来、7校目となる訪問を決めた。

サプライズではなく、事前にイチロー氏の訪問が知らされていた部員たち。10月11日の練習終了後、西中剛志監督は部員を前にこう切り出した。

監督:大きな力をくれる人がここに来てくれることになった。スペシャルゲスト。どうだ?僕らが甲子園に行くために大きな力を貸してくれるスペシャルゲスト、誰だ?

部員:新庄(剛志、北海道日本ハムファイターズ監督)さん?

監督:ああ、ビッグボスね。確かに北海道に住んでるし。それはすごい話だよ。当てずっぽうで誰だって言ってみて。この人に来てくれたらうれしいなって。今津いくか?

今津良介選手(1年):鈴木さん。

監督:どこの鈴木さん?

今津選手:鈴木一朗さん。

監督:鈴木一朗さん、知ってる?どんな人か言ってみて。

今津選手:左バッターでメジャーで活躍して、打率が高くて、足も速くて、全部そろってる選手です。

監督:それ正解だ。来るよ!

その瞬間、部員たちはみな驚きの表情を浮かべた。訪問日までの口外禁止を伝えられ部室に戻った彼らは「マジエグい!俺絶対言っちゃう!」「マジでダメ!ダメ!ダメ!」と、一様に興奮した様子だった。

「膝を上げない」球児たちへ“イチ流”アドバイス

11月4日、11時40分過ぎ、球児たちの憧れるイチロー氏が同校のグラウンドに現れた。

「初めまして、イチローです。見たよ、みんなからの動画。えーとね、今津君。『鈴木さん』て言ったよね。俺自分でも鈴木さんて忘れるくらい。僕のこと鈴木さんて呼ぶの、高校の後輩か病院の待合室くらい。その後『鈴木一朗さん』て言ってたけど、何で『鈴木一朗さん』だったの?」

これに対し今津選手は「本名で呼ぶのが礼儀かなと」。笑いに包まれるグラウンド。そしてイチロー氏は訪問の経緯を次のように語った。

「(旭川東は去年)53年ぶりに出た決勝も負けてしまった。切なすぎて。でも実はそこで勝ってたら僕来てないんですよ。同じように11回目を経験した旭川東が、ちょっとでもきっかけになれたらなという思いで今日は来ました。僕、今日一緒にみんなと練習するので、疑問があったり何か聞きたいことあったら聞いてもらっていいし、その2日間だから、一緒に練習して何か感じてもらえればうれしいです」

ウォーミングアップから始まった練習。ダッシュに取り組む部員たちを見て、早くも“イチ流”のアドバイスが飛び出した。

「膝を上げてダッシュしてるよね。出来るだけ膝を上げない。膝を上げると、スピード出ない。前傾したいんだよね、走る時は。スピードに乗っていきたい。膝を上げずに前傾姿勢を保ったまま推進力を上げる」と言い、低い姿勢でダッシュをしてみせる。

「今、前傾してるの分かる?膝は上がるんだけど意識して上げていない。そのための4つのポイントは『ひざはなるべく上げない』『前傾姿勢を保つ』『スピードを上げるために腕を後ろに振る』『膝から下を振り上げる』。これでストライドが伸びる」

イチローの大飛球が校舎の窓ガラス直撃!?

イチロー氏がフリーバッティングを始めると、多くの部員がその周りを囲んだ。食い入るように見つめる部員たち。飛距離は「49歳より50歳の今の方が伸びている」というイチロー氏。14球目には、校舎直撃弾。さらに屋上に打球を乗せた際には部員たちも思わず「えぐっ!」。結局5本が校舎を直撃し、そのうち1本は窓ガラスを直撃するなど、そのパワーに部員たちは雄叫びを上げ、拍手喝采した。

「大丈夫ですか?」と心配するイチロー氏に「北海道は二重ガラスなので。北海道は(ガラスが)2枚なので」と声が飛ぶ。50歳にして未だ衰え知らず。最後まで部員たちを驚かせ続けたイチロー氏は金言も残した。

「バテてきた時にどういう形を保てるかが大事。楽して打とうとすると、その形が身についてしまうので、要注意。しんどいけど正しい自分の形を保ってバットを振る。これが大事。それが上手くなるチャンスだと思います」

2日目も部員たちの質問攻めからスタート。「緊張してます」と練習前に話していた唯一の女子選手、中山志輝さん(1年生)がイチロー氏のもとへ向かった。

中山選手:バッティングで自分の感覚は大事にしたほうがいいですか?

イチロー氏:もちろんです。そりゃそうだよ。

中山選手:先生に言われたりするんですけど・・・しっくり来なければ、やらなくてもいい?

イチロー氏:一度やってみる、しばらくやってみる。それで違うなって自分なりに答えを出したならそれはもう捨てていい。プロの世界でもコーチ、毎年変わる可能性があって。そのコーチの言うことを毎年聞いて自分の形を変えてたら、何が何だか分からなくなっちゃうから、しっかりした自分の形は、確固たるものをまず作る。その上で色んなアドバイスを取り入れるか入れないか、そういうスタンスの方がいいと思う。

中山選手:はい、分かりました!

さらにこの日は、イチローの代名詞である背面キャッチの練習も行った。

「目から離れている所で、どこにボールがあるか分からないと取れない。遊んでるようだけど、背面で取れたら、前で取るの簡単でしょ」。イチロー氏がお手本を示し部員たちが挑戦するが、なかなか上手くいかない。

「結構難しいからね、これ。風もあったりしたら。でもめっちゃいい練習だから。冬のいい練習になる。これが出来るようになれば、普通のフライが簡単に感じます」

何度も何度も挑戦する部員たち。取れたり、取れなかったり。そこには笑顔が溢れていた。

球児たちへ「人より頑張らなくていい」

2日間に渡る練習が終わり、イチロー氏は旭川東の部員たちにこう言葉を贈った。

「人より頑張らなくていい。自分の中でその日の限界を迎えることはできるよね。迎えることができたのか、逃げてしまったのか、自分ならわかるよね。それを重ねて行ったら、できるようになる。誇りやプライドが生まれるから、それが支えてくれる」

「指導者、厳しくできないって。時代がそうなっちゃってて。厳しくできないと何が起こるかっていうと自由にできちゃうからね。なかなか自分に厳しくできないでしょ。今、自分を甘やかすことはいくらでもできちゃうよね。でもそうなってほしくない。いずれ苦しむ日が来るから、大人になって社会に出てから。できるだけ自分を律して厳しくする。(部員同士)仲良しだから、『ホントはこれ言いたいけどやめとこうかな』ってあるでしょ。でも信頼関係が築けてたらできるでしょ、『お前それ違うだろ』って。言わなきゃいけないことは、1年から2年に言ったっていいよ。『先輩これは違うんじゃないか』。そういう関係が築けたら、チームや組織は絶対強くなれますよ。それを遠慮してみんなとうまく仲良くやるでは、いずれ壁が来ると思う。それがこの2日間で感じたこと」

最後に「僕は、いつも見てるから」と伝え、2日間の指導を終えた。

キャプテンの臼井颯汰選手(2年生)は「自分たちが当たり前だと思っていたことが全然違っていて、ゼロから野球を見ることができた。自分たちがこの冬謙虚な姿勢で取り組めることが、この2日間で学べたので、明日から早速取り入れて来年の夏、絶対に甲子園に行って、イチローさんにいい報告ができるように頑張ります」。悲願達成へ、力強く宣言した。

■イチロー氏の高校生指導
2020年に初めて高校球児を指導。初めて指導した智弁和歌山は翌年の夏の甲子園で優勝を果たした。

2020年 智弁和歌山(和歌山)
2021年 国学院久我山(東京)、千葉明徳(千葉)、高松商(香川)
2022年 新宿(東京)、富士(静岡)

■旭川東高校
1932年に巨人でシーズン42勝を挙げるなどしたプロ野球初の300勝投手、ビクトル・スタルヒンも旭川中学時代(旧制)に野球部に在籍した歴史ある学校だ。

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