「感情的な人」から「感情豊かな人」へ

「知的レベルが高い」のと「感情をコントロールする能力」は全く別物。それを理解できていない人が、近年は増えている気がします。頭は悪くないのに人間関係が上手くいかない人って、この二つの能力に落差があり過ぎるんだと思います。

体作りやトレーニングの理論を指導する立場にいるので、色々な人と身体論やトレーニング理論などについて話す機会がありますが、話していて凄く「自分では、理論派で冷静沈着な人間だと思っているけれど、実際はかなり感情的な人」がいたりします。こういう人と話すと、対応に困る事があるんですよね・・・。

その意見が正しいか、正しくないかは別として相手の意見を尊重する事が出来ればいいんですけど、自分の意見・理論の方が大切な人って少し自分と考えが違うと相手をもう受け入れられない。意見が受け入れられないのは、まあいいんですけど、相手の人間性まで否定したりする人もいる。その姿が非常に感情的なのに、その自分の感情的になっている姿が冷静に見つめられない・・・。

つまりは、「客観性がない」という事になるんですけど、それを指摘されるとさらに感情的になってしまう。

こういう姿を見ると、「感情豊か」である事と「感情的」になる事との違いがごっちゃになっていたり、よく分かっていない人は多いんだなと感じます。

どちらかというと、「理論派」というのか、普段は「冷静」な人を演じている人に多い様な気がします。

「感情豊か」と「感情的」、この二つの違いが本当にこの二つが分かっている人、頭の知識ではなくて、体で、実体験でこれが分かっている人は、「感情豊か」ですし、その上で「事に当たって冷静」ですね。自分の感情の変化を普段からよく見つめているから、その一時の感情に振り回されない。自分の感情を「一時的なもの」と「本当の想い」とに分けて認識出来ているんだろうなと思います。

頭でっかちタイプの理論派の人は、「自分の感情がブレる、変動する」のを嫌うから、そういう状況に陥るのを普段から避けている事が多いんでしょうね、何かあった時にかっ場が凄くブレてしまう人が多い。これは単なる経験不足なだけだけど、「自分の感情がブレまくってパニックになり、みっともない想いをした」という経験を嫌うから、単純にそういった場数を踏んだ数が少ない。だから、実際にそういった状況に陥った時に、感情が抑えきれずに動揺してしまう。

だから、普段は落ち着いて冷静な人間を演じているのに、「イザという時にブレまくった、非常にみっともない姿」を晒してしまったりする。

脳は、その構造上、恐怖を感じた時に情動が大きく動く。恐怖を感じると、原始的な脳(大脳辺縁系)が大きく活動して恐怖から逃れようとする。すると情動が暴走する確率が非常に高くなり、感情が大きくブレてしまう。人間らしい落ち着いた、冷静な判断を行う前頭前野が活動できなくなってしまうんですよね。

感情豊かな人は、自分自身の実体験でそういった状況に陥った時の「みっともない自分」を何度も体験しているし、それを実地で抑えて上手にコントロールする訓練をしてきているから、恐怖を感じたり、怒りを感じた時にでも、前頭前野を働かせる事が出来る。情動が暴走しそうになった時にも余裕が持てるんですよね、場数を踏んできているから。

そして、「そういう醜い姿も自分の一部だし、他人もそれは同様である。人間ってそんなもんだ」と思っているから、自分にも他人に対しても大らかな気持ちで接する事が出来る。だから、いい面も悪い面も含めて素直に自分の感情を他人の前でさらけ出せるし、周囲の人に与える印象も「おおらかで感情豊か」というものになる。

自分自身のみっともない経験、情けない部分をよく理解しているから、人間というものに対する理解の深さが違うのだと思う。

理論派の中でも人間関係などで揉まれた体験の少ない人っていうのは、その逆で「みっともない想いをする経験を避けてきた」から、失敗に対する免疫が少ない。それが、何か非常事態が起こった時の感情の動揺に繋がり、ブレまくってしまう。

つまり、そういった状況に陥った時の「感情的になった、凄くみっともない自分」を沢山味わってきていないから、そういう状況になるのを避け続ける。だから、どうしても普段から、「感情を出せない」、つまり「感情豊かになれない」という事になるのだと思う。

理論派ぶってる人(ここで指すのは、ぶってるだけで本当の理論派ではない人)、皮肉屋みたいな人って、本当は自分が「人として魅力がない」事が分かっているから、それを隠すためにそういうペルソナ=仮面を被っているだけだと思うんですよね。

人間なんて、一生懸命に生きていればみっともない姿もいっぱい晒すし、そんな姿こそが「人間くさい魅力的な人なんだ」って分かればいいのになと思います。失敗を怖れ、失敗を避ける事が最重要事項みたいになって、物事に挑戦せずに、スカしてカッコばかりつけている皮肉屋になってしまったら、人生楽しくないはず。

生きている以上、人は何度も失敗するものだし、失敗したらまた挑戦すればいいだけ。

それが人間として本当に魅力のある姿なんだ、感情豊かに生きるってそういうものなんだ、と思えた時、人は「感情的な人間」から卒業して、「感情豊かで人間的に深みのある魅力ある人」になれるんじゃないかなと思います。

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