【共感障害ー若者たちに密かに起こっていること―①】
近年、「“共感能力がない“と言われる若者が増えてきた」という事をよく見聞きします。仕事や日常生活でも、ちょっとしたやり取りが上手くいかない、真意が通じていない、といった事を嘆く人が僕の周囲にも沢山います。
この理由はどこにあるのだろう?とよく考え、心理学や脳科学の本などを調べるのですが、分かりやすく書いてある文章を読んだので、紹介したいと思います。
心という、見たり触ったり出来ないものをどの様に磨き、鍛えるのか。これは人間の永遠のテーマだと思うのですが、これを心理的なものというよりは「運動能力、体育といったものである」と捉えた方がいいという事になるのだろうと思います。昔から日本では、「心身一如」とか、「体育・道徳・知育の順で人を育てる」といった事が重視されていましたが、それが少しずつ科学的に証明されてきているんですね。
以下、黒川伊保子さん(脳科学・人工知能研究者)の著書より抜粋
ここ数年、新卒新人たちの様相が変わってきたという報告を受ける。「反応が薄い」というのだ。「新人教育を施した時、会場全体がしら~っとしている。あれは心が折れる」というつぶやきを耳にする。
話を聞いているのか分からないので、「聞いているの?」と尋ねると、きょとんとしている。指導をしてくれている先輩に何も言わずに、さらに上の上司や人事部門に、「誰も仕事を教えてくれないのに、いきなり、何でやらないのかと叱られる」とパワハラを訴える。
実は、こういう子達は、性格が悪いので野でも、躾が悪いのでもない。ましてや、ゆとり教育のせいでもない。脳の生理的な「共鳴反応が弱い」のである。コミュニケーションにおける共鳴反応は、ヒトの脳の基本性能の一つだ。
私達の脳には、「他者の表情や所作を、自らの神経系に、鏡に映す様に直接写し取る反射機能」が搭載されている。ミラーニューロンと呼ばれる神経細胞がそれを可能にしている。赤ちゃんは、目の前の人の発音動作を写し取る事で、言葉を獲得する。抱いてくれている人の腹筋や横隔膜の動き、胸郭への共鳴、息の風圧も重要な情報だ。つまり、母語(人生最初の言語)の獲得には、聴覚にもまして、視覚や触覚を使うのである。加えて、「微笑み返す」「手を振り返す」など、動作を連動させる事で、コミュニケーション能力を身に付けていく。対話能力は、ミラーニューロンによってもたらされるといっても過言ではない。
続く