損ねたものを取り戻す
「飢えている、欠けているものを追い求める。
これは人生においてずっと続くものですよね。肉体的なものもそうですが、精神的に、あるいは魂・スピリチュアルな意味でも、人は欠けているものを補わずにはいられないものなのだと思います。
子育て、学校やスポーツや仕事における指導・教育でも、この部分を指導者が理解しているかどうか?は凄く重要なところでしょうね。
(万引きをする一つの理由は、「本当に欲しいもの」を貰えていない事で、いつも飢えているからです)
本当に欲しいものは親の承認
摂食障害の娘達には万引きする子がとても多いのです。告白するのは三割くらいですが、実際は七割くらいの子がやっているでしょう。むしろ、万引きしない子の方が珍しいと言えます。
万引きする一つの理由は、「本当に欲しいもの」である親からの承認が貰えていないからです。親から「それでいいんだよ」と言って欲しいのです。欲しいのは、「なかなか健気にやっているじゃない、それでいいんだ」という言葉だけです。
過食症だったある女性は、「私はずっと、私の奥で『お母さん、これでいいの?』と言い続けてきたように思う」と言っていました。彼女らは「承認されたい」「流石は〇〇ちゃん」と言われたいーーその欲求に追い立てられています。
この飢餓感が万引きに誘う。万引きには、損ねたものを取り戻すという意味があるのです。
ところで、万引きすると捕まります。捕まると親に連絡が行きます。彼女達を見ていると取る事より捕まる事が目的の様な場合があります。親も恥をかくので、親への復讐という意味合いもあるでしょう。
しかし、より重要な事は、口では言えない、親の前では示せなかった“もう一人の自分”を曝け出す、いいキッカケになるという事です。自分に過食させ、ゲロを吐かせ、万引きをさせる自分の中の悪い部分が、捕まる事で処罰されるという目的も達せられる。
彼女達は良い子の部分だけの自分が空虚で、嘘くさくて寂しいために、悪い子を出動させているのです。一種の多重人格の不完全バージョンをやっていると言えるが、元々良い子の在り方に無理があるから、そういう事になる。
ですから彼女達の治療は、良い子を手放すこと。「吐いたっていいじゃない」「盗んだっていいじゃない」(よくはないのですが)という位の柔軟さで接してあげる事です。少なくとも、「これは病気だ」という理解くらいはしてあげて欲しいもの。声を掛けるとすれば、叱るのではなく、「悩んでいるんだね」という事です。
彼女達は万引きが見つかった時、「そういう自分は軽蔑される」「捨てられる」と思っている。そういう時に、お父さんが「そうか、そんなに苦しんでいたのか」とか、お母さんが「今のままでいいのよ」と言ってあげられたら、その一言だけで全て解決してしまう事もあります。
斎藤学(さとる)著
「愛」という名のやさしい暴力より抜粋