精神が肉体を凌駕する

現役の頃、先生や先輩方からこのオールアウト能力=「出し切る力を身に付けろ!」を口を酸っぱくして言われましたね。

この記事では「時間」という壁について書かれていますが、僕がやっていた武道の世界では「肉体的な苦しさ・自分の心の弱さ」という壁を乗り越える方法を自分なりに身に付ける、という事を凄く重視して教えられました。

それはこれからの人生全般に生きるもの、これを付けるのが武の道だと。

【問題解決能力はオールアウト能力から】

時間をかければ、テストの問題は全て解答出来る、どんなに難しい問題でも正解が出せるのにという子供は多いはずだ。

「問題は時間に限りがある」という事である。

制限時間がある事で、人に焦りの心理を生じさせる。

この焦りが「後、何分しかない」という強迫観念を生み、パニック状態を引き起こす。そうなると、試験に全力投球出来ず、「頭の半分は時間をカウントし、もう半分で問題を解く」という脳の使い方をしてしまう事になる。全てを問題に向けられない分、問題解決能力は低下する事になる。

もう一つ、制限時間を設定されると、その時間内に全ての問題を解答しなくてはならないと思い勝ちだ。すると、頭の中で制限時間を問題数で割って、一問に使える時間は~分と無意識の内に計算してしまう。そうなると、問題を解きながら、後何分で次にいかなければならないと思うあまり、一つ一つの問題に集中出来なくなる。普段なら簡単に解ける問題も、余裕のない状態で臨まなければならなくなる。

スポーツでは、試合の制限時間に全ての能力を出し切る能力をオールアウトと呼んでいる。

サッカーやラグビーの様に最初から制限時間制になっている種目もあれば、野球やソフトボールの様にイニング性、テニスや卓球、バレーボールの様にセット制になっている種目、陸上や水泳の様に自分の動きそのものが制限時間の様なものまで実に様々だが、何らかの形で制限時間があり、「時間との勝負」という面を必ず持ち合わせている。

私達スポーツを通して、制限時間内で絶えずオールアウト能力を出す様に訓練する事が出来る。

ただし、スポーツをすれば、オールアウト能力がすぐに身に付くわけではない。「試合中に時間を気にするあまり目の前のプレーに集中出来ず凡ミスを繰り返す」「完璧な試合をしようと意識し過ぎて完全性が崩れてしまった時に精神的に一気に気持ちが萎えてしまう」といった経験を最初はするだろう。

そうした失敗を明日の糧にしながら、「制限時間内でどの様にしたら自分の力をオールアウトしていけるか」を身に付けていくのだ。

これは受験やテストにも同じ事が言える。何も満点を取る必要はないのだ。現時点での自分なりのベストが出せれば、それが自信に繋がる。自信が付けば、必ずや自分の力を押し上げる源となるはず。まずは、ライバルがどうのという前に、現在の自分の力をオールアウトする事を目指すのが先決だろう。

人間は本当に弱いもの。

精神的にもそうだし、肉体的にも。

体にとっては正しいのですが、「自分の肉体を痛めつけないため」そして「体力を使い切って逃げられない、生き残れない」という状況を避けるため、必ず余力を残そうとするもの。

この「エゴ」はとても強くて、試合でも稽古の時でも苦しくなると、脳は無意識下で手を休めようとしてしまう。「野獣に追いかけられている」等といった命が掛かっていない状態においては、それは動物そしては正しいのだけれど、選手にとっては人生を掛けた勝負で一大事。

でも本能に仕組まれたシステムは強くて、この壁を破るのは至難の業。

この本能的なシステムを破るために、日々のトレーニングや稽古があり、少しずつ自分の精神的な限界を引き上げて、肉体的限界へと近づけていく。

これは自然の仕組みに抗うものだし、「死に近づく」行為なわけだから、凄く苦しいのだけれど、これをしていく事で、自分の精神が肉体の限界・エゴの領域を凌駕していく。

宗教の苦行と言われるものも、こういった領域を目指すものだと思いますし、武道が動禅」と言われたりするのもこういった側面があるから、という部分もあると思います。

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