脳は一つでも「自分」は二人いる
脳に関する色々な本を読んでいると、必ずこの「脳の進化」における問題点が出て来ますね。
脳はガラッとモデルチェンジしていない。必要に迫られて、少しずつ後から色々な機能を付け足して進化してきた。
それが、この脳という機能の扱い辛さである、と。
そして現代社会は、この脳の未熟さ?を食品業界やメディア、ゲーム業界等の大企業に利用されている事でなおさら、人々は自己コントロールの難しさに悩まされているのだ、と。
以下、抜粋して紹介します。
【脳は一つでも「自分」は二人いる】
意志力が働かない時、――浪費したり、食べ過ぎたり、時間を無駄にしたり、カッとなったりーーそんな時は、自分の脳には前頭前皮質なんて無いんじゃないかと疑いたくなるかもしれない。
この有様には、人類の失火の仕方が大いに影響している。進化と共に脳は大きくなったが、脳の中身が一変したわけではない。進化は「何もない所から始まる」のではなく、「既に存在する物に付け足す形で起こる」のだ。
だから、人類にとって新しいスキルが必要になった時も、原始的な脳から新しいモデルにガラッとチェンジしたのではなく、「衝動と本能のシステムが既に存在する所へ、自己コントロールシステムが付け加えられた」のだ。
つまり、かつて役に立っていた本能は、人類が深化した今もそのまま残っている」という事。けれども、そのせいで問題にぶつかったとしても、進化したお陰で、それに対処する方法も与えられている。
一つ例をあげるなら、太りやすい食べ物に感じる悦びをめぐる問題。
かつて食糧が乏しく、体脂肪を蓄える事が命の保証となった時代には、甘い物に目がないお蔭で生き延びるチャンスが増えた。
しかし、ファーストフードやジャンクフードが溢れ、大型スーパーがどこにでもある現代では、食べ物が有り余っている。太っている事は、命を保証するどころか健康上のリスクとなる。
なのに、遠い先祖の役に立っていたという理由で我々の脳には、脂肪と糖分を求めてやまない太古からの本能がいまだに備わっているのだ。
しかし、後から出来た自己コントロールのシステムを利用して、欲望を抑える事も出来る。つまり、衝動自体は無くならないにしても、衝動を抑制する機能が備わっているわけである。
神経学者の中には、私達には「脳は一つしかないが、心は二つある」と言う人さえいるほどだ。あるいは、「私達の心の中には二つの自己が存在する」のだと。
つまり、片方の自己が「衝動のままに行動して目先の欲求を満たそうとする」一方、もう片方の自己は「衝動を抑えて欲求の充足を先に延ばし、“長期的な目標”に従って行動」する。
そのどちらも自分であり、私達は二つの自己の間を行ったり来たりしている。
意志力の問題とは、この事なのだ。
「あるものを欲しい」と思いながら、同時に「全く別のものを望んでいる」。
もしくは、「今の自分はあるものが欲しい」、けれども、「やめておいた方が将来の自分のためになる」。
そんな風に、二つの自己が対立すれば、一方がもう一方をねじ伏せるしかない。
しかし、誘惑に負けてしまう方の自己が悪い訳ではない。
「最も大事なのは何か」という事について、「考え方が異なるだけ」なのだ。
(マイクロスコープ) もう一人の自分に名前をつける
意志力の問題は、いずれも二つの自己のせめぎ合いから生じる。
対立する二つの自己の事を考えてみよう。
衝動的な自分は、何を望んでいるのか?
賢い自分は何を望んでいるのか?
衝動的な自分に「あだ名をつける」のが効果的だという人もいる。
例えば、目先の欲求を満たそうとばかりする自分には「クッキーモンスター」とか、文句ばかり言ってしまう自分には「やかまし屋」とか、腰の重い自分には「怠け者」とか。そういう自分になりかけた時には、ハッと気づいたり、賢い方の自分を呼び覚ましたりするのに役立つのだ。
ケリー・マクゴニガル
(スタンフォード大学の心理学者・専門は健康心理学)