【共感障害―若者たちに密かに起こっていること―③】
「上司がバカに見える」
しかしながら、言われた本人には自覚がないので、威嚇されたと感じる。答えようのない質問をしてくる「愚かな上司」にパワハラを受けていると勘違いしてしまう。
実際に、共鳴反応の弱い若者にインタビューしていて、「ウチの上司は、ハッキリ言ってバカなんです」と言われた事がある。何かというと「やる気あるのか」と言ってくる。そんな証明しようのない質問してくるなんて時間の無駄じゃないですか?やる気があるから、通勤電車に乗って、会社に来てるんだから。
「やる気がない様に見える、あなたが悪いのでは?」私はそう思ったけど、口には出さなかった。言ったところで、埒が明かない。この世に、「共鳴動作」という「通信プロトコル」がある事を知らない人は、そう簡単に納得させられない。
「治せないが、利点はある」
ミラーニューロン効果は、言葉や所作の基本を獲得する赤ちゃん期に最大に働き、3歳ころに激減し、その後もおそらく8歳、12歳と段階を踏んで度合いを減らして大人になる。周囲のあらゆる事に脳が共鳴していたら、自分の思考や行動がキープ出来ないし、危険から身を守れないからだ。
共感力が一般平均より低いという事は、未発達ではなく、ミラーニューロンを捨て過ぎてしまった結果。大人になってから手にする事は残念ながら不可能に近い。
とはいえ、共感力の低い脳には利点もある。周囲の思惑に惑わされないので、信じた事に一途に邁進出来る。科学者や匠の中には、このタイプも結構いるはずである。心臓の強いビジネスパーソンになれたりもする。部下や自分が共感力障害だと分かっても、落ち込む必要はない。コミュニケーションの方法を工夫し、脳の特性を活かしてやればいいだけだ。
黒川伊保子(脳科学・人工知能研究者)
捨ててしまった能力はもう取り戻せない。なかなか厳しい結論ですが、そうなった以上はそれで生きていくしかない。そのプラス面を上手く、活かしていく。共感能力の低さが、自分の行動力や軸のぶれない芯の強さに繋がる面もある。物事は捉え方次第と言えますもんね。