意志の力とは何なのか?②
続きです。
「スタンフォードの自分を変える教室」
ケリー・マクゴニガル著(スタンフォード大学の心理学者・専門は健康心理学) より抜粋して紹介します。
「自分を知る」事は、自己コントロールへの第一歩である。
「意志力の科学」が明らかにする事の一つは、
人間は誰でも誘惑や依存症に苦しんだり、気が散ったり、物事を先延ばしにしたりして、悩んでいるということ。
それは、いずれも個人の能力不足を示すものではなく、誰もが経験している事で、人間なら当たり前とすら言える事なのだ。
【本書の使い方――「科学者」として自分を観察する】
科学者になるために最初に学んだ事の一つが、
「理論がいくら優れていようと、事実(データ)に勝ものはない」という事である。
だから、皆さんも本書を読みながら実験を行って欲しい。生活の中で、自分を研究対象として貰いたい。
私の言葉を鵜吞みにしないで欲しい。私がポイントを説明し、それに対する根拠も述べるので、皆さんはそれを生活の中で試して欲しい。その実験の結果を見ながら、自分にはどの方法が適しており、どれが効果的なのかを発見して欲しい。
各章には、意志力の科学者になるための二種類の課題が用意されている。
一つは、「マイクロスコープ(顕微鏡)」。
説明するポイントが、皆さんの生活にも当てはまる事に気付いて貰うためのものだ。
何かを変えようと思ったら、まずは「現状を在りのままに見詰める」必要がある。
自分が最も誘惑に負けやすいのはどんな時か?
自分に対して、どんな「言い訳」を用意しているか?
小売店が、客の自制心を弱らせるために「どんな工夫」を凝らしているか?
課題を行う時には、偏見を持たず、好奇心いっぱいの観察者になって欲しい。顕微鏡を覗いている科学者の様に、胸をときめかせながら。
もう一つの課題は、「意志力の実験」である。
科学的な研究や理論に基づいて自己コントロールを強化するための実践的な戦略だ。これらの方法は、すぐに実生活に応用する事が出来る。
これは試験ではなく実験なので、上手くいかなくても構わない。
自分の学んだ方法を、友人や家族、同僚にも試して貰い、他の人にはどの戦略が効果的なのかを知るのもよい。どんなケースにも学ぶべき事があり、それを活かして自己コントロールを強化するために自分の戦略を磨く事が出来る。
本書を最大限に利用するには、自分の取り組みたい意志力の問題を具体的に一つ決め、紹介する方法を一つずつ試していく事だ。
あなたが取り組むべき問題は、
「やるべき事をやれない事か?」=「やる力」のチャレンジ。
「やめたいと思っている習慣か?」=「やらない力」のチャレンジ。
「最も力を注いで集中したい、人生における最重要事項か?」=「望む力」のチャレンジ。
あなたが取り組みたいチャレンジはどれだろう。
P25
【一つの章からは一つの戦略のみ実行する】
本書は10週間の講座の形で構成されている。各章のポイントと戦略には密接な繋がりがあり、各章で学ぶ事が次に進む準備となる。
戦略を実践する際は適度なペースで行うこと。受講生たちは、各章を丸一周間かけて試す。新しい戦略を毎週一つずつ試し、どの戦略が最も効果があったかを報告するのだ。
皆さんも、同じ様な方法を取って欲しい。
特に体重を減らすとか、おカネの管理等、具体的な目標に取り組む際はなおさらだ。いっぺんに沢山の方法を試すのは止めて欲しい。
P27
【マイクロスコープ あなたの「チャレンジ」を選んでください】
「やる力」のチャレンジ
「これをすれば生活の質が向上する事が分かっている」から、もっとちゃんと取り組みたい、「あるいは先延ばしせずに実行したい」と思っている事があるか?
「やらない力」のチャレンジ
どうしても止められない習慣があるか?
健康を害する、幸福や成功の邪魔になるので止めたい、減らしたいと思っている事があるか?
「望む力」のチャレンジ
あなたが最もエネルギーを注ぎたいと思っている、最も重要で長期的な目標は何か?
またその目標に向かうあなたの気を逸らし、誘惑し、遠ざけてしまう目先の欲求とは何か?
- 「やる力、やらない力、望む力」
大抵の人にとって、意志力が試される典型的なケースは、誘惑に打ち勝つ事、「やらない力」だ。ノーと言う力。
そして、先延ばしにしている事も、意志の力が強ければ今日の「やる事リスト」に加えられる。「やる力」である。イエスと言う力。
「やる力」と「やらない力」は、自己コントロールの二つの側面を表しているが、意志力はそれだけでは成り立たない。
「ノーと言うべき時にノーと言い」、「イエスと言うべき時にイエスと言う」ためには、もう一つの力、すなわち「自分が本当に望んでいる事を思い出す力」が必要なのだ。
自制心を発揮するには、肝心な時に「自分にとって大事なモチベーションを思い出す」必要がある。これが「望む力」だ。
意志力とはつまり、この「やる力」「やらない力」「望む力」という三つの力を駆使して目標を達成する(そして、トラブルを回避する)力の事だ。
この三つの力こそが、「人間とは何か」を定義するものと言えるかもしれない。
P31
【本能に流されずに生き抜く】
想像して下さい。10万年前、あなたは時代の最先端をいく、最も優秀なホモサピエンスである。
ほんの数世代前までは、生きていく上で重要な事はわずかであった。
- 食べ物を見つける。
- 繁殖する。
- 人喰いワニとの遭遇を避ける。
しかし、今や密接な結びつきを持つ部族の中で暮らしており、生き残っていくためには、仲間のホモサピエンスの力を借りなければならない。
つまり、「他人を激怒させない様にする」事が、生き残るための心得に加わったのだ。
共同体で生きていくには、皆で協力し、資源を分かち合わねばならない。欲しいからといって、何でも好き勝手に手を出す訳にはいかないのだ。もし誰かの水牛バーガーやパートナーを盗み取ったりしたら、集団から追い出されるか、悪くすれば殺されてしまうかもしれない。少なくとも、病気やケガをしても、あなたのために狩りをしたり、木の実を取ってきてくれる人はいなくなるだろう。
石器時代であっても、友情を勝ち取り、周囲への影響力を持つためのルールは、現代とさほど変わらない。住処に困っている仲間がいれば一緒に住まわせてやり、空腹でも食べ物を分かち合い、「そのふんどし、何か太って見えるね」等とうっかり余計な事を言わないようにする。
言い換えれば、自制心が少々必要なわけだ。
この様にして、私達が意志力と呼んでいるものが初めて必要になった。歴史が進むにつれ、人間社会はますます複雑になり、それに合わせて自制心の強化も求められる様になった。
集団に属し、協力し、長期的な関係を維持する必要に迫られた原始人は、それこそ脳みそをふり絞って、自己コントロールの方法を考えた。その結果、人間は現在の様な進化を遂げた。
脳は必要性に応えて進化し、私達はついに「意志力」を手に入れた。人間らしい衝動をコントロールするための力である。
p33
【出世も勉強も寿命も「意志力」が決める】
では現代へと戻ろう。
かつて、人類と他の動物を区別していた意志力は、今や人間同士の間に差をつけるものとなった。
意志力は誰にでも生まれつき備わっているはずだが、中にはとりわけ意志力の強い人もいる。注意力や感情や行動を上手くコントロール出来る人は、色々な点で優れている。
健康で幸せ、パートナーとの関係も良好で長続きする、収入も高く出世する。ストレスや争い事があっても上手く乗り切り、逆境にもめげない。さらには寿命も長い。
様々な長所と比較しても、意志力に勝ものはない程だ。学業で成功するかどうかは、知力よりもむしろ意志力だし、優れたリーダーシップの発揮も、カリスマ性より意志力が決め手となる。
だから、生活を改善したいのなら、意志力の問題から始めるのがいい。そのためには、脳の事をもう少し詳しく知っておく必要があるだろう。
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