待つ力

これ、いいアドバイスですね~。

鴻上さんのこの記事、よく読むんですけど、いつもええ事 言わはるな~と感心します。

上手な指導者って、こういう緩急みたいなのが上手いんですよね。

締める所と緩める所、両方あってこそ、人は伸びるもの。片方だけだと、窮屈になったり、ただ甘やかしたりになってしまう。

こういった懐の深さ、人間の器の大きさを現代の人間は失ってしまっていますね。近視眼的な視点を捨てて、長い目、深い視点で人や社会を見る努力をしていきたいなと思わされました。

以下転載です。

成果を出さない我が子にカッとしてしまうと悩む48歳母親に、鴻上尚史が「経験のない演出家」を例に示した原因と解決法

 私は子供二人とくらす、シングルマザーです。

 私には悪い癖があります。すぐに答えや、成果を求めてしまうことです。

 例えば、子供の成績がおもわしくないと、成績悪いなら学校に行ってる意味がない、辞めたら?と簡単に言ってしまいます。

 そんなこと言ったらダメだとわかっています。でもついカッとなる自分が抑えられないです。

 次のテストまでに、成績あげないと絶対に許さないと言ってから、頭の中では、そんな短期間に成績あげることなんて普通は出来ないことを冷静に考えてる自分がいます。

すぐに成果に現れないと気がすまない自分が本当にイヤになります。なんで私はじっくりと見守れないんだろう、と怒る度に落ち込んでいます。

 子供はかわいいです。きらいなわけではないと思います。

 色々な啓発本を買って読んでは、自分の癖を治したいと思ってきました。家の本棚には色々な本がありますが、この本棚の持ち主は、相当病んでると自分でも思うほどです。でも読んだ直後は改心しているのに、気づいたら怒ってます。

 こんな癖に困って人に相談したことがありますが、「親なんだからちゃんと頑張ろう」とか「充分頑張ってるから大丈夫」とか「気の持ちようで変わる」とか色々とアドバイスはもらいました。しかし、一体どこをどう頑張ればいいのかがわからないです。頑張ってると言われてもピンときません。

 具体的にどうすれば、この癖を治せますか? また、治せるものでしょうか?

 シングルだから?という気持ちもあります。シングルのままで子育てしたいので、環境を変えてではないアドバイスをいただければと思っています。よろしくお願い致します。

【鴻上さんの答え】

 おいもさん。焦ってますね。「具体的にどうすれば、この癖を治せますか?」と書かれていますが、僕はそんなに難しいことではないんじゃないかと思います。

 僕は演劇の演出家です。演出家の一番大切な仕事はなんだと思いますか? 人によって答えは違うでしょうが、僕は演出家の仕事は「待つこと」だと思っています。

 俳優さんに演技を指示します。「ある動きをしながら、セリフを本心から喜んだ感情で言って欲しい」なんてことだとします。動きは、ただ歩くとか座るとかの単純なことではなくて、例えば、軽くスキップしながら相手役の人の肩を軽く触る、にしましょうか。

 喜んだふりをして、ただセリフを言うのは簡単ですが、本当に喜びながら、この動きをするのはなかなか大変です。人間ですから、すぐにはできません。焦れば焦るほど余計できなくなります。演出家が急かしたら、かえって、うまくいかなくなります。だから待ちます。

 もっと大きなことも待ちます。それは、俳優が「役になろうとする過程」です。『ロミオとジュリエット』というお芝居をするなら、男優がロミオになりきるまで、女優がジュリエットの感覚がつかめるまで、演出家は待ちます。

 一人の人間が別の人間になるのですから、当然、時間はかかります。すぐに他人の気持ちや内面が分かるはずがないのです。「どうしてこんなことをしたのか?」「どうしてこんなことを言うのか?」。じっくりと考え、セリフを言い、動いてみないと分からないものです。頭で分かるのではなく、心で分からないと「役が分かった」とは言えないからです。

 でね、おいもさん。

 そんなことを言いながら、僕も人間ですので、芝居の幕が開く初日の日付が常に頭にあるわけです。半年ぐらい初日が先なら、どーんと待てますが、たいてい、初日は4週間とか5週間先です。3週間稽古して、あと1週間しかないのに、まだ俳優が役をつかんでないなんてことは普通にあります。

 そういう時、思わず、急かすことを言ってしまったりします。「まだできないの?」なんてことです。

 で、言ってしまって「しまった」と思います。俳優の顔を見たら分かります。焦って、緊張した顔に変わりますからね。そういう時、僕は「あ、ごめん。俺、せっかちだから、つい、言っちゃったよ」と謝るのです。そして「大丈夫。まだ1週間もあるんだから。充分時間あるから」とフォローするのです。

 おいもさんも、「次のテストまでに、成績あげないと絶対に許さないと言ってから、頭の中では、そんな短期間に成績あげることなんて普通は出来ないことを冷静に考えてる自分」がいるんでしょう? だったら、言った後に「とは言ったけど、そんな短期間には無理よねえ」と言えばいいのです。そして「ま、ちょっとだけでも上がるといいよねえ」と付け足すのです。

 え? そんなことできない?

 じつは自信のない演出家とか経験の浅い演出家ほど、とにかく指示したがります。俳優の意見を聞かないし、自分の弱みを見せないのです。

 でも、経験を積んでくると「いやあ、今回の芝居は大変なんだよね。やることはいっぱいだし、テーマは難しいし。でも、ひとつひとつコツコツやっていきますか」なんて軽口と共に、「一緒にやろうよ」と俳優に手を差し伸べます。自分一人だけでがんばろうとしないのです。

 経験のない演出家とは、つまりは「自分が必死にがんばらないといけない」と決めている演出家です。そういう演出家はとにかく「~をやって下さい」と指示だけを連発するのです。

 おいもさんは「シングルだから?という気持ちもあります」と書かれていますが、「シングルマザー」であることで、肩に余計な力が入って必死になっているんじゃないかと思います。それが「経験の浅い演出家」の症状と似ていると感じるのです。

 おいもさん。まずは自分が待てない性格であること、そしてそれが自分では嫌なことを子供に伝えませんか? がんばらないといけないという必死さとか、ちゃんとした母親として子供の前では弱みを見せてはいけないというプライドを捨てて、正直に言うのです。

 それで、おいもさんはかなり楽になるはずです。同時に、子供も救われると思います。母さんは「待てない性格」を問題にしてくれているんだ、と分かるだけでホッとするでしょう。

 そして、子供の「初日」はいつなんだろうと考えて下さい。僕が俳優と接する時、いつも初日までの時間を考えます。うまく初日に間に合えば幸せですが、そうならない場合も当然あります。人間ですからね。

 レベル1の俳優が初日までにレベル6になって欲しいのに、レベル3で幕が開く場合です。その場合は、どんなに怒ってもわめいてもレベルは上がりません。人間はそんなに簡単に変わりませんからね。この場合、僕はその俳優が将来やる予定の、次の芝居の「初日」を考えます。それは僕が演出家でないかもしれません。レベル1の俳優が、レベル3まできた。半年後の次の芝居では、レベル5になるかもしれない。演技が嫌いになって、レベルが戻るのではなく、演技が好きになってレベルが上がる方向で、次の人に手渡したいと思います。

 俳優の「初日」は未来にたくさんあって、一歩一歩進んで行けばいいと思っているのです。

 おいもさん。お子さんの「初日」も、未来にたくさんあると思います。毎日の結果に焦って一喜一憂するのではなく、いくつかの「初日」を考えながら、子供に正直に自分の反省点を伝えていくのが、お互いの素敵な関係だと思います。

 どうですか?

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