脳を操れるが故、人間の苦悩は生まれる②

続きです。


私の予想によれば間髪入れずというべきか、増田選手はたちまちグラリとよろめいてバッタリと道路に倒れ込み、頽(くずお)れる様に路面に顔から突っ込んだのである。普通こういう倒れ方はしない。それは実に悲惨な倒れ方だった。
 
この時、増田選手はもしかするとヒステリー性性格の所有者なのではないか、という判断がチラリと頭をよぎった。
 
「あっ、ホントだ。えーっ、どうしてそんな事が分かるの?」
隣の医学博士の悲鳴に近い驚きの声である。
 
スタートして54分、距離にして14,7キロの地点であった。一過性の脳貧血に脱水症状が加わったためという直後の診断であった。
増田選手は身長150センチ、体重50キロと小柄だが、情報によれば心拍数は45(瀬古、宗兄弟で40)、酸素摂取量72(瀬古、宗兄弟で75ml、一般女子の2倍近い)という値を示していて、マラソンランナーとしての適性は女子としては群を抜いている。
みんな同じ条件の下で走っているのに、増田選手だけがどうして早々に倒れなければならないのかという問題がある。
 
その後、二つの病院で別個に精密検査を受けた。軽い貧血が認められるものの、肉体的にはなんら異常がなく、今後の競技生活には影響ないと両病院の結果が一致した。
 
監督の言によれば、彼女は試合前によく眠っていない、食べ物を要求しながら、手をつけなかったという。これは倒れた後に医者が調べたら位の中が空っぽだったという所見と一致する。
要するに増田選手は、睡眠不足の上に飲まず食わずの状態でレースに挑んだわけだ。彼女は倒れるべくして倒れたのだ。
 
続く

アスリートに限らないんですが、人のトレーニングを指導していると、ここまで極端ではなくとも、こういう姿はよく見ますね。自分自身の経験を振り返っても、こういう事は何回もありました。でも、そこに立っている時にはなかなか分からない。自分で自分を客観的に捉える事は本当に難しいんですよね。

肉体的条件よりも、心が自分で壁を作ってしまっている。

心の状態が体に影響を与えて、自らを負ける様な状態にわざわざ置いてしまう。しかも、それを本人の顕在意識は認識していない。顕在意識では勝つために必死な状態にある。

けれど、本心、潜在意識レベルでは違う意志が働いている。

これは人間全てに当てはまる葛藤やなあ~と思います。

アドラー心理学でもこれはハッキリと言っているし、ユングとかもそうですし、まともな宗教でも同じ。昔から見えている人には見えている部分なんですよね。

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