その「ルール」は適正なのか?

そこを考えずに、ただ従順に従うのは違うはずだ!と言いたかったこの三年半なのですが、それとも重なるスポーツ界の告発を紹介。

卓球には全く関心がなかったけど、昔、「卓球界の不正に水谷選手が立ち向かっている」という話を知ってこの問題に興味を持っていた時期があります。

日本人はいつでも「ルール」に従順で、「これがルールだから」と言われると順守しますが、他の国は必ずしもそうではない。

日本人はその特性、良く言えば「素直「悪く言えば「バカ正直さ」を常に利用・悪用されている事になぜ気付かない、気付こうとしないんやろうと思っていたので、勇気あるなと思っていました。

この問題にも、日本の卓球協会もなかなか動き出さなかったみたいですし、政治や報道などと同じでとにかく「事なかれ主義」なのは同じなんですよね・・・。

スキーやF1など、昔から沢山あるし、国際法というルールのある戦いであるはずの「戦争」でも同じ。

国際法違反である便衣兵(軍服を着ていない兵士)に銃で撃たれ、軍事施設以外を攻撃してはならないのに沢山の街を焼夷弾で焼かれ、原爆を落とされ。

それでもアメリカに対して抗議せず、自分達が悪かった様に振る舞う。いい加減、負け犬根性が身に付き過ぎじゃないかと思う。

【不正は告発する。その結果には囚われない①】

「選手生命と進退をかけてもいい。こんな不正をいつまでも許すわけにはいかない」ロンドンオリンピック直後の2012年秋、私は卓球界で横行してきたラケット・ドーピングを告発した。国際大会のボイコットを宣言し、世界の卓球界に一人でケンカを売った。

2008年の北京オリンピックまで、多くの卓球選手がラケットとラバーの接着時に「スピードグルー」と呼ばれる接着剤を使用してきた。この接着剤は揮発性の溶剤であるため、まるでシンナーの様な強い臭いを発する。

北京オリンピック直後の2008年9月、ITTF(国際卓球連盟)は「スピードグルー」の使用を禁止した。それに続いて、ラバーに接着剤や接着シート以外の余計な物をつける事も禁止している。ところが多くの卓球選手は、補助剤を密かに使い続けていた。

補助剤はほぼ無臭のため、検査機を通しても不正ラケットはスルーしてしまう。これでは違反を摘発する事は出来ない。検査体制が脆弱なのをいいことに、外国人選手は公然とルール違反を犯し続けてきた。

卓球というスポーツは、用具の差が試合を大きく左右する。昔の試合の映像を見ると、外国人選手のボールはビックリするほどよく跳ねる。昔のボールは、今の様に硬いプラスチックではなかった。柔らかかったため、不正ラケットで弾くと凄まじい回転がかかる。するとバウンドした時に、上に跳ねたり沈んだり変幻自在の変化球になるのだ。

「そんなものは、努力でカバーすればいいではないか」と言われた事がある。それは今の卓球界を知らない人が言う事だ。現役選手は皆、用具のせいで試合に勝てない事に苦しんでいた。

用具さえフェアな状態であれば、勝てた試合は沢山あったはずだ。インチキをやりたくない私は、断固として不正ラケットには手を出さなかった。これではハンディキャップマッチをやっている様なものだから、ただでさえ強い外国人選手にはまるで歯が立たない。

フェアであれば、自分の強さを証明出来る。ラケット・ドーピング告発によって用具がフェアになれば、自分は必ず勝てる。卓球選手としての本当の強さを照明するために、勇気をもってたった一人で卓球界の不正に立ち向かった。

北京オリンピック以降、不正ラケットの存在に気付いていた私は、2009年から事あるごとにラケット・ドーピングについて声を発してきた。前述のルール変更はあったものの、ITTFは補助剤使用を根絶するための大ナタを振るってくれない。日本卓球協会も、不正を止めるために矢面に立って戦ってはくれなかった。

そうこうする内に3年が過ぎ、ロンドンオリンピックでも不正ラケットは堂々と使われた。まわりの大人が誰も動いてくれない中、もうこれ以上は我慢が出来ないと思ってボイコットを宣言した。幸い、日本国内では不正ラケットを使う者は誰もいない。これで何も状況が変わらないのであれば、最悪、国内で一番である事を示していけばいいと思った。

オリンピック選手は全員尿検査を受け、ドーピングが発覚した時にはメダルを剥奪される。国家ぐるみでドーピングをやっていた事がバレたロシアは、丸4年間も国際大会から追放される厳しい処分を受けた。

なのに卓球界では不正がまかり通っている。ロンドンオリンピックでその実態を目にした私は「ここまで酷い世界があるのか」と呆れ果てた。こんなメチャクチャなインチキが是正されないのなら、卓球なんて辞めて引退しようと思い詰めた。

私の告発はメディアで大きく報道され、日本卓球協会がITTFに是正を求めるといった動きも起きた。選手生命を失い、卓球界から消されかねないリスクを負ってまで、あの時声を上げた意味はあると思っている。

2013年1月の全日本選手権で、私はロンドンオリンピック以来初めて公式戦に復帰した。2月には、クウェートで開かれた国際大会に半年ぶりに復帰している。完全に問題が解決されるまでボイコットを続けていたら、現役で活躍出来る時間はどんどん奪われてしまう。

満額回答が出るまでハンガーストライキを続けるのは、無謀で不毛な戦いだ。それよりも現役選手として卓球をやりながら、偉い人々に物申す自分でありたい。問題を告発して一石を投じ、爪痕を残せたのだ。ヤケの捨て鉢にならず、「よし。ここからもう一回卓球を始めよう」と納得した。

ロンドンオリンピックまでの私は、コントロールとスピードがバランスよく出るタイプのラケットを使っていた。ラケット・ドーピングをしている選手が放つボールは、不正のおかげで威力が物凄い。彼らに対抗するため、スピードと威力が強く出て、ボールが弾むラケットに用具を変えた。このラケットはコントロールが難しい。用具変更のせいで落ちたスペックは、練習によって補えばいい。威力はラケットによって上げる。コントロールは練習によって高める。こうして私は、不正ラケットを使う海外選手と同じ威力を出せる様になった。

ボールがプラスチックに変わった2014年前後は、試合中にボールがしょっちゅう割れることがあり、波乱だらけだった。とても商品とは呼べない劣悪なボールが、未完成品のまま流通していたのだ。メーカーにより、ボールの弾みが全然違う事にも閉口した。そういう状態が2年ほど続いた後、ボールの状態は飛躍的に改善された。

残念ながら、補助剤によるラケット・ドーピングが横行している現状は、今も変わっていない。だが告発から長い時間が経ち、状況は変わった。用具メーカーのイノベーションによって、ラケットやボールの性能は見違えるほど進化した。用具が変化したお陰で、外国人選手がこれまで持っていた利点が試合で出しづらくなっている。

私がずっと求めてきたのは、今の卓球界だ。昔は不正ラケットを使っている相手に勝ち目はなかったが、今は日本人選手であっても彼らと同等に戦える。不正ラケットなんて使わなくても、張本智和選手は外国人選手と対等に戦い、勝てる可能性は高くなってきた。外国人選手が不正ラケットを使ったところで、メーカーの技術力と選手の技術力がインチキを上回る。イノベーションが不正に打ち勝ったのだ。

Follow me!